【全文版】「学校法人の経営者が語る!児発開所の【しくじり】セミナー」 ~児発を開所するなら俺から学べ!~
児童発達支援管理責任者
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2024年12月9日(月)、VISH株式会社(本社:愛知県名古屋市、代表取締役社長:田淵 浩之)は学校法人児玉学園 理事長:児玉 匡信氏と学校法アルス学園 理事長:大熊 啓太氏と合同で、幼児教育・保育の理事長が語る療育開所の実情やインクルーシブのリアルな現状をしくじりエピソードとしてお話を行うオンラインセミナー「「学校法人の経営者が語る!児発開所の【しくじり】セミナー」 ~児発を開所するなら俺から学べ!~」を開催しました。
目次
本セミナーについて
昨今、子どもたちを中心とした幼児保育・療育の業界では、
「保育所と児童発達支援等の一体的な支援(インクルーシブ保育)」が国全体として推進されています。
学校法人や社会福祉法人を経営されている方の中にも、
【包括的に子どもたちを支援することで、みんなが幸せになる世界を作りたい!】
こうした意思や思いを持って、発達に凹凸がある子ども達も含めて包括的に支援をすることを目指す方も多いのではないでしょうか?
そして、その世界を実現するためにはどうしたらいいのだろうか?
今回はインクルーシブに関して興味関心をお持ちの経営者様向けに、インクルーシブの第一線を走る学校法人の経営者2名と一緒に、インクルーシブのリアルな現状としくじりエピソードを語りました。
<執筆・編集:VISH株式会社 柳田 翔悟>
登壇者紹介
児玉 匡信 氏(学校法人児玉学園 理事長)
大熊 啓太 氏(学校法アルス学園 理事長)
柳田 翔悟 (VISH株式会社 「コノベル」プロダクトマネージャー)
しくじり①:赤字

児童発達支援事業は儲かるのか⁈
児玉先生 「黒字が当たり前」「儲かる」といった認識で事業を始めようとする方も多いとは思いますが、結論、私も大熊先生もまずは【赤字】からスタートしています。
なのでまず大前提「赤字」スタートである覚悟は必要だと思います。
大熊先生 やはり事業である以上、赤字で事業運営をし続けるというのは厳しい部分はあると思うので、赤字前提で事業を起こそうとはしていないが、結果的に赤字が続いているという感じですね。
しかし、元々事業を始めたきっかけは、今法人の幼稚園に通っている子どもたちの中にも、”配慮が必要な子ども” はいて、どのように関わったら良いのかという先生たちの困りを軽減してあげられるか、そして子どもたちに対して適切な支援をしてあげられるか?というのを考えたからです。
児玉先生 児玉学園では開所して半年経ちますがまだ黒字化はしていないです。
ただ、開所前に銀行や役所などを通じていろいろ情報は集めていて、自分が施設を開所したいと思っていた市では、配慮や支援が必要な子どもの数と、受け入れる施設の定員の数を比較したときに”圧倒的に施設の数が足りていない”ことがわかっていました。
なので数字的に見ても「利用数はすぐ定員いっぱいになるだろう」と想定はしていたんですが、いざ開所してみると子どもたちが全然来ない、みたいな現状があり、開所当初は本当にびっくりしました。
では、なぜ施設が足りないとわかっていてもこのようなことが起きてしまうのか?
大熊先生 実は施設を利用している子どもたちは、自園に通っている子どもたちがほとんどです。
でもこれは決して意図しているわけではなく、自園以外の子どもたちを受け入れていないというわけではないんです。
児玉先生 うちもそうです。
大熊先生 これは経験談なんですが、学校法人や幼稚園が児童発達支援を始めると、『そこに通っている子どもたちしか通えないんじゃないか・・?』と保護者の方から実際に思われてしまっていたことがわかりました。
保護者の方に施設を紹介してくれる相談員さんも、なぜかそういう雰囲気が出てしまっていて、なかなか自園以外のお子さんが来てくれず、利用数としては数字がなかなか上がらなかったというのはありますね。
児童発達支援をご利用いただくのが自分の園の子どもだけというのは事業としては厳しいのではないかなと思っています。
「赤字」というスタートの壁はある中で、これから児発を立ち上げようとお考えの経営者の方にアドバイスはありますか?
大熊先生 やっぱり小さく始めるというのは大事かなと思っています。
うちの場合は、支援をする職員をあらかじめ用意して、自分の園の中に配慮が必要な子どもたちが●●人いるからすぐ施設を利用してくれるだろうとイメージしていたが、実際はすぐには利用してくれない。
児玉先生 これそうなんだよね、すぐには使ってくれないんだよね・・。
大熊先生 さらに幼稚園保育園は、”在籍していること” で運営費は入るが、児発の場合は ”施設を利用する” ことで運営費が入るというそもそもの概念が違う。
なので、在籍は10人いるけど1日2~3人しか来ていないみたいなことが起こってしまうので、利用した実績が収益に直結するというこの概念は理解しておく必要があるし、いかに最初は小さく始めるかというのが大事ですね。
しくじり②:「幼稚園と児発の先生同士のコミュニケーション」

幼稚園保育園と児童発達支援所それぞれでどういった違いがあるのか⁈
児玉先生 幼稚園保育園と児童発達支援の先生の大きな違いって「人数」だと思います。
幼稚園保育園の場合、2~30人の先生たちがいるんですが、児童発達支援の場合は5~10人と、幼稚園保育園に比べて人数が少ないので、『仲も悪くなりやすい』と考えています。
やはり児童発達支援の場合だと、人数が少ないがゆえに職員同士が絶対に顔を合わせるというのがあり、幼稚園保育園の場合は、それぞれ自分の教室(クラス)に行けば気が紛れるので精神的安定も保たれやすいというのはあると思います。
大熊先生 うちの場合は、幼稚園と児発の場所が離れているというのもあり、「コミュニケーションは作ろうと思わないと作れない」ということを実感しました。
最初は幼稚園と児童発達支援で同じ子どもたちを見ているから自然と幼稚園⇔児発のコミュニケーションが生まれるかと思っていたんですが、意外とそうではなかったですね。
やはり同じ子を見ているという事象はあっても、『アプローチ(接する視点)の仕方が違う』ので、よく幼稚園保育園で言われる保育観が違うというのは言われますが、幼稚園保育園と療育でも同じで、これは最初苦労しました。
例えば、幼稚園保育園側で今までやってきたことや子どもたちへの接し方、それに対して療育の先生からの「この子は〇〇だから+でこういうことをしませんか?」みたいな別の意見が出てくると、決してそうではないのに幼稚園保育園の先生は「否定されている」と感じてしまうというのがありましたね。
先生同士のコミュニケーショントラブルはどう回避したらいいのか?
児玉先生 うちの場合は「罵詈雑言ゲーム」というのがあって、気持ちの整理と相互理解を図ることを目的として、お互いの思いをオープンに言い合う時間を設けました。
仲直りがゴールなんじゃなくて、「まず本音を出す」ことを重視しました。
人数が少ないからこそ、「あの時私はこう思いました」「こういうのが嫌だった」というのを言い合わないと、壁ができたまま日常が過ぎてしまうので、こういった機会を作りました。
結果、「伝え合える」ということができたことで先生同士の意図や考えが理解できて、コミュニケーショントラブルを回避できるようになったというのを実際に経験しました。
ただその際には、【ファシリテーションをいかにするか】が重要で、このファシリテーション次第でその場を円滑にできるかどうかが変わってきます。
大熊先生 うちは幼稚園保育園と児発の連携を一番やりたかったので、
同じ子であっても幼稚園保育園で見せる子どもの姿と児発で見せる子どもの姿が違うこと、
幼稚園保育園と児発の先生それぞれの考え方が違うという背景を相互でまずは理解してもらう。
これができたことで、ようやく【何ができるか?】という話ができるようになりました。
また、私が実際に経験した中で、”一番やってはいけないこと” があります。
それは、幼稚園保育園の先生から見て、児発(の先生)という存在が【加配の先生】という認識を持ってしまうことです。
この認識を持ってしまうと、配慮が必要な子どもたちへのアプローチが大変な時に ”手伝ってくれる人” という形になってしまい、人手として見てしまうのです。要するに”幼稚園保育園の先生は楽になる” と思われてしまった。
幼稚園保育園において、配慮が必要な子に対して「児発に振ろう!(アウトソーシング・丸投げという考え方)」というのがそもそも大きな間違いで、これは実際に私が経験しましたし、幼稚園保育園と児発を一緒にやるうえで陥りやすいしくじりだと思います。
児玉先生 これってやっぱり経営者側が、【理念】や【思い・考え方】がしっかり浸透していないと陥りやすいしくじりで、新しいこと(今回の場合は児童発達支援事業)をする際には「否定されている」という勘違いが現場で起きやすくなるから、理事長や園長、経営者は丁寧にしっかり伝えていかないといけないことだと思っています。
しくじり③:障がい児支援の世界のスピード感と踏むべきステップへの理解度

幼稚園保育園と児発における「制度の違い」はどう見ているのか?
大熊先生 まず幼稚園保育園だと大きな制度改正みたいなのはあまりないのかなと思っていますが、児発の場合は3年に1回大きな改訂が行われます。
私の場合は開所してすぐ大きな法改正があったので、開所当初に構想していた職員の配置や支援の時間とか組み方が全部やり直しになった経験をしました。
今回はたまたま大きな改正だったのかもしれないが、幼稚園保育園に比べて【制度に合わせた事業運営】をしていかないといけないというのはありますね。
あとは利用者さんのご契約のタイミングですね。
幼稚園保育園の場合は、途中入園などはちらほらあるものの、基本的には4月に「入園」というのが決まっています。
児発の場合は利用者さんがご契約をいただく(施設を利用したい)タイミングが1年中あって、さらにご契約いただいてから実際に施設を利用するまでの ”タイムラグ” も人によってはあるので、読めない部分はあります。
自治体にもよりますし、人にもよるかもしれないですが、施設を利用するために必要な受給者証が発行されるまでだったり、発行後からご契約までだったりと、『支援につなげるための時間』というのは、ざっくり半年くらいは時間がかかるんだなと感じています。
児玉先生 私も大熊先生と同じで、児発という世界は3年に1回の法改正で制度自体の変化が激しい世界なので、情報感度は高くして変化に対応できないと『置いて行かれてしまう』と思います。
これは今の世の中がそうかもしれないですが、変化に合わせて柔軟にできないと厳しいと思います。
総括
学校法人児玉学園 理事長 児玉 匡信 氏
児発を立ち上げるということにおいて、なんでそれをやろうと思ったっていうことを考えると、やっぱり保育が変わってきたことが一番大きいんじゃないかと思っています。
30年前と同じ保育ではなく、今に即した保育をやりながら、かつ子どもたちのことを第一に考えていった結果、発達障がいのようなグレーゾーンと呼ばれる子どもたちがうちの園に通うことがすごく増えてきました。
いわゆる今までの古い幼稚園の形だとそこで子どもが過ごせなくなってきたっていうのを目の当たりしてから、うちでも預かるようになってきて、だんだんもうそういう子どもたちが増えるなら児発をやっていこう、運営していこうということになっていきました。
企業の経営として良くない考え方かもしれませんが、儲けたいとか利益を追求する事を第一に考えるのではなく困っている人がいるならという意図で幼稚園の中で1人でも多くの子どもが生き生きと育って毎日が楽しいと思ってもらえるような場所をと考えた時に児発という選択肢があったというただそれだけでした。
本セミナーをご覧いただきありがとうございました。
学校法人アルス学園 理事長 大熊 啓太 氏
実は児発立ち上げるときに、あのアルス学園は埼玉県志木市にある法人なのですが、市からはもう飽和状態なんで開所できませんって最初言われました。
しかも埼玉県だと学校法人で児童発達支援事業所やってるところがなく、市からも渋い顔されました。
でも、その幼稚園とか保育園が児発をやることの意義ってのは絶対あると自分の中で思っていたので、なんとかお願いしてやらせてもらうことができています。
おそらく皆様も児発を始めるとしくじることがそれなりにあるでしょうし、きっとそれ以外にもいろんなことがあると思うんですけど、その中でも絶対に児発をやる意義はあると思います。
放デイとか児発って、正直言ってしまえば誰でもできてしまう、オープンできてしまう事業ではあるですが、やっぱり学校法人や社会福祉法人とかのような、日々子どもたちと携わってる事業者がやることに僕は意味があるんじゃないかなって思っています。
本セミナーをご覧いただきありがとうございました。
執筆者・柳田のまとめ
今回は学校法人として幼稚園を経営されているお二人に、「児童発達支援」という新たな事業の立ち上げに関するしくじりエピソードについてお話をいただきました。
私自身、今回のセミナーを通じて、「赤字」「職員同士のコミュニケーショントラブル」「業界の変化の激しさ」など、普段はあまり触れることができない部分について、経営者という立場であるお二人とだからこそ、それぞれのしくじりを通して新たな気づきを得る機会になったと感じています。
この先皆様も新たな事業を立ち上げたり、新たな挑戦をされる中で、今回挙げられたしくじりのようなことが起こるかもしれません。
しかし、お二人のように
「なぜ自分たちがこの事業をするのか?」「この事業をやる意義とは何か?」
という【理念】や【思い】をトップが持っていることがいかに大事か、そして ”しくじり” が起きたとしても、【理念や思い】を基に進み続ける【覚悟】が必要だと考えます。
本セミナーを通じて、1人でも多くの方のお役に立つことができれば幸いでございます。
この度、ご登壇いただきましたお二人の先生、誠にありがとうございました。